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「制作者に聞く!大河ドラマ『光る君へ』美術の魅力」開催レポート

はじめに

企画展「体験!体感!!テレビ美術のうらおもて」関連イベントとして、制作者に聞く! 大河ドラマ『光る君へ』美術の魅力と題した公開セミナーを3月23日に開催しました。

現在放送中の『光る君へ』は平安時代中期の様子が色濃く表れていて、特に衣装や美術が作品中で重要な役割を果たしています。今回は風俗考証、衣装デザイン、美術、美術進行、演出を担当されている方々を迎え、制作の様子をたっぷりと伺いました!司会は『光る君へ』出演者のインタビューなども行っているコラムニストのペリー荻野さんです。

下手から:司会・ペリー荻野さん、風俗考証・佐多芳彦さん、衣装デザイン・諫山恵実さん、
美術・山内浩幹さん、美術進行・西本幸司さん、演出・中島由貴さん

大河ドラマ初! “1000年前の人々の生活を蘇らせる”

『光る君へ』は、これまで大河ドラマで描かれてこなかった平安時代中期の物語です。
演出の中島さんは2012年放送の『平清盛』に携わった経験から、平安時代を描くのはとても大変で、覚悟があったそうですが…

中島:多くの人が『源氏物語』を知っている割に、作者の紫式部の人物像についてはあまり知られていないからこそ、創作の余地が大きいのではないか 

と前向きにとらえたそう。ちなみに、主人公の「まひろ」という名前も脚本の大石さん、プロデューサーと共に考えたと明かしてくれました。

中島:やるからには、文化的なことを取り入れて、美意識を高く描きたいと当初から考えており、画面を暗くせずに、自然に近い色合いで色彩豊かに目に飛び込んでくれば良いなと思いながら日々制作している

と、制作に対する心持ちを聞かせてくれました。

ドラマにおける風俗考証の仕事とは?

大河ドラマのスタッフクレジットでよく目にしますが、おおまかに言うと、作品中の人々の服装や、所作、調度類など、その時代の特有のものを見分けて映像の中で使ってもらえるようにする仕事です。
佐多さんはこれまで2016年放送の『真田丸』や、2023年放送の『鎌倉殿の13人』など数々の大河ドラマの風俗考証を担当されてきましたが、平安時代が研究の基盤であり、ドラマの話が来た時には「やっときた!と思ったと同時に、考証者としてもこれは大変だ…」と感じたそう。

佐多:平安時代中期を大河ドラマで制作するのは初めてなので、過去の作品の在庫がなく、物を一から作る必要があった。また「なぜ貴族は烏帽子を被らなければいけないのか」など、時代特有の概念をスタッフに伝えるのが難しい。しかし、今回の美術スタッフは何度も一緒に仕事をしたことがあったので、どんな風に頼めば、どんな風に再現してくれるのか、期待ができると思った

細かい描写が良く出ている例として挙げたのは、

佐多:「上級貴族」の藤原兼家(演・段田安則さん)と「下級貴族」の藤原為時(演・岸谷五朗さん)、そして「庶民」3者の生活の様子をきちっと分けて示している。例えば、第1話で兼家と次男の道兼(演・玉置玲央さん)が屋敷で、ぜいたく品である青い磁器をひたすら磨いているシーンが出てくる。 “史実は細部に宿るとよく言うが、身分の差がある当時の生活を描くことが風俗考証の主眼であり、自然とドラマ全体が上手く動いてくれる

ペリー:視聴者の立場から言うと、主人公のまひろ(演:吉高由里子さん)と藤原道長(演:柄本佑さん)に身分の差という障害があることによって、グッと心を掴まれる。それをちゃんと映像で表現されているが、そういうところにはこだわられたのか?

中島:身分の垣根を超えることを上手く表現していきたいと考えていた。一番の課題は主人公の装束。女性たちは十二単を着てズルズル歩いている時代。まひろは下級貴族ということをメリットとして、切袴(短い袴)にし、上に着る うちきも小さいものにすることによって、活動的な女性を表現した。そのようなことも、佐多先生としっかりお話した

まさにドラマの中の主人公は庶民とも交流があり、フットワークが軽いイメージです。

また、ペリーさんが「平安時代の絵巻物に描かれる顔は皆、下ぶくれですね」と投げかけると、

佐多:当時は「こういう顔つきが貴族として望ましい」と絵画表現上のルールがあった。身分の差が顔で明確に表現されている

と、その場の疑問に答えていただき、日々の制作現場でのやりとりを目の当たりにできた貴重な場面でした。他の登壇者から「佐多先生がいないと何一つ作れない!」と言われるほどの信頼の厚さが解ります。

多彩なキャラクターが反映された登場人物の衣装

衣装デザインの諫山さんは、2019年度放送の連続テレビ小説『スカーレット』で火鉢のデザイン、絵付けなどを担当されていました。その時から関わりのあった演出の中島さんから「衣装デザイン」を受けてくれないかと打診が。

諫山:制作発表を見て「こんな時代、よく手を出したな~」と他人ごとのように思っていたところに話が来て、急に自分ごととなってビックリ!平安時代は資料が少ないけど、好きな方は多いので、大変なことは分かっていた。いちから勉強し直さないと…という思いだった

主人公をはじめとする登場人物の衣装について、

諫山:紫式部という名の通り、ゆくゆくは主人公の衣装に紫色を全体に使うので、初期のうちは、紫に合う色としてオレンジや、山吹色などを合わせて元気なイメージを表した。また、化学染料が発達した現代と違い、当時は自然由来の染料を使っていたため、色数に限りがあって、旬の色を衣装に取り入れるのが難しい。旬を取り入れようとすると全員が同じ色になり、ドラマとしてわかりづらくなるという懸念があった。中島さんと相談して、季節は度外視し、登場人物のキャラクターに合った色を使うことにした

ききょう(後の清少納言 演・ファーストサマーウイカさん)は一番下に濃い目のブルーを入れ、コントラストをはっきりさせ我の強さを表現し、赤染衛門(演・凰稀かなめさん)は禁色ギリギリのくすんだ色でシックな賢さを出し、藤原公任(演・町田啓太さん)はピンクを着こなす男子というイメージで考えたそう。

藤原道長の一門はブルー系のグラデーションを意識した衣装ですが、美術スタッフ側でも道長が住む東三条殿のキーカラーとして同じ色合いを偶然取り入れていたことを明かしてくれました。見事な連携ですね!

美術のこだわり!細かいところまで作り込まれたセット

美術が見せどころの今回の作品。ドラマでの「美術」は、美術全体の計画を立て、セットなどをデザインする役目。対して、「美術進行」とは、美術スタッフを取りまとめて、その計画を実施する役目です。
美術の山内さんと、美術進行の西本さんに美術のこだわりを伺いました。

山内:最初に取り組んだのは為時の屋敷。本当はもっと立派だったかもしれないが、ドラマ上、身分の差を表現したかったので、上級貴族と比べて貧しさを出した。調度品も色あせていたり、塀が崩れていたり…。寝殿造りではあるが、奈良時代の建築様式も取り入れて、時代に取り残された感を出している。一方、清涼殿(※天皇の住まい)は床を高くし、木の素材感も高級で、御簾も青々としている

山内:清涼殿の白木の丸柱は、当時は大工道具が発達していなかったため、槍のような穂先のかんなで仕上げた。表面がツルツルではなく、うねうねした感じ。今回はそういうところまで表現した。一本ずつ削ると、とてつもない時間が掛るので、一本だけ宮大工さんに削ってもらい、型を取り、樹脂で加工して量産して作った。中は空洞で軽いため持ち運びも楽で、再利用も可能になっている
※清涼殿については企画展「体験!体感!!テレビ美術のうらおもて」開催レポートで詳しく説明しています!

西本:絵巻物が2Dだとしたら、それを3Dにして役者に渡すのが我々の仕事。例えば、御簾は竹を染めて、絵巻物に描かれている清涼殿に限りなく近づけた。また、内裏で行われる1年間の行事が書かれた「年中行事御障子」は、京都御所の清涼殿に現存する本物を参考にして作った。『光る君へ』タイトルの題字ならびに書道指導を担当している根本知先生に、実際に一文字ずつ書いてもらい、リアリティを持たせた

フォーカスされない道具でも、一つ一つこだわって作られていることが解ります。セットについて、佐多先生は、

佐多:清涼殿のセットが完成したと知らせを受けて、スタジオに見に行った時に、感動に耽ってしまった。扉を開けると新築の木材の匂いがする。京都御所で見ることのできる清涼殿は築170年以上経っているが、この本格的な清涼殿は全くの新築。新築の清涼殿に入ることができたのは我々スタッフだけ。そこにいられることに優越感がありました(笑)

と感慨深く語り、会場を和ませました。

また、為時の屋敷は水に囲まれています。近くの鴨川から水を引き入れている設定だそうで…

佐多:皆さんにどうしても言っておきたいことが…為時の屋敷は、実は水が動くんです!水が湧く井戸があったり、池が回遊式になっていて、水面にちゃんと表情がある

中島:水があるということで、野菜を洗ったり、鏡の役割をしたり、夜には月が映り…と、演出が広がる。このセットプランを聞いた時にとても素敵だと感じた。また、特に個人的に良いなと思っているのは、土御門(源雅信の邸宅で、姫たちが集う場所)の庭側にひさしがあり、姫たちの遊びのシーンで光が差し込むところ。セットのお陰で、表現が膨らみ、演出を考えるのが楽しい

佐多:私のお気に入りは土御門にある牛車(餝車 かざりぐるま)。季節の花でデコレーションして楽しむもので、季節感を出している。これを飾りとして置くという美術スタッフの発想がすごい。先ほど、衣装の話の中で「季節感が出しづらい」とあったが、このようなセットや年中行事で季節感が出せる

 美術をこだわりぬき、 “1000年前の人々が生活を蘇らせる”というコンセプトが細部に表現されているからこそ、リアリティが増し、物語に夢中になってしまいます。

また、登壇者にこれまでの『光る君へ』の放送回の中で、イチオシのシーンとコメントを伺いました。

【『光る君へ』イチオシシーン】

風俗考証・佐多芳彦さん
内裏清涼殿での朝儀(第1話)
(コメント)黒の束帯姿の集団の圧がすごいです。また、当時の朝廷を象徴的に示すシーンで他の時代の大河ドラマ等では絶対に見ることのできない映像です。

衣装デザイン・諫山恵実さん
安倍晴明の狩衣姿(第3話)
(コメント)佐多先生からのご提案で片身替わりの狩衣を取り入れた。デザインを7案出し、一番シュッとしたものを採用いただいた。互い違いのデザインにすることで、陰と陽を表している。

美術・山内浩幹さん
まひろ土御門殿のサロンに初めて参加(第3話)
(コメント)白木のセットや青々とした御簾や畳、色鮮やかな几帳、衣装などが、デザインコンセプトとして掲げている「平安絵巻を色鮮やかに蘇らせる」を象徴したシーン。

美術進行・西本幸司さん
五節の舞(第4話)
(コメント)岩手県奥州市の藤原の郷で夜にロケ。まひろたち姫4名と40名の帝と公卿が出演。40名を超える大人数の束帯の着付けは初めて。昼から出演者も私服で舞の撮影の準備をして念入りにシミュレーションした。上からまひろたちを映したシーンは唐衣との長さのバランスが絶妙。

演出・中島由貴さん
散楽<狐と猿>(第7話)
(コメント)庶民と貴族を繋ぐ役割として「散楽」を登場させたいと考えた。3パターンほど自分で演目の台本を書き、布をつぎはぎして貴族の姿に見せたり、楽器を手作りするなど、当時あるものを工夫して作り上げた。

司会・ペリー荻野さん
直秀が手引きしたまひろと道長の密会(第5話)
(コメント)シーンの中で、道長が直秀のことを「直秀殿」と呼んでいて、道長の人柄が出ている。のちのち、直秀の存在がまひろと道長の胸に残るので。

参加者からのアンケートでは「衣装や美術のこだわりを知ることができ、ドラマの見方が変わった」、「それぞれのお仕事を互いにリスペクトしているところが素敵」などの声がありました。「佐多先生と一緒に光る君へが観たい!」という熱い要望も!

物語の今後の展開も気になるところですが、美術的にチャレンジした内容がたくさん出てくるとのことなので、ぜひ、美術にも注目して、『光る君へ』の世界をさらに楽しんでみてはいかがでしょうか。

また、放送ライブラリーでは今回ご登壇いただいた方々が過去に手掛けたドラマや、紫式部・源氏物語関連の番組を公開しておりますので、ぜひ、放送ライブラリーの視聴ブースをご利用ください。

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