教育利用サービス活用事例~山脇学園高等学校編~
学校について
2月24日、東京都港区赤坂にある私立・山脇学園高等学校を訪問しました。山脇学園は女子校で、完全中高一貫校です。
東京メトロの赤坂見附・ 永田町・青山一丁目・赤坂駅の各駅から徒歩5~10分ほどで、大変アクセスしやすい場所に位置しています。
なんと校舎の真横には、江戸末期の武家屋敷門が!もともと都内の別の場所にあったそうですが、九十九里浜への移設など紆余曲折を経て、2017年に現在の場所へ移築が完了したそうです。
2023年が、ちょうど創立120年の記念の年にあたる山脇学園。時代に合わせて校舎のリニューアルを行うなど学習環境の整備を行っています。
2017年には校舎のリニューアルが完了、2020年には校内ネットワークの整備が行われ全学年にiPadを導入し、ICT教育を本格始動させました。
今回見学した授業でも、ZoomやiPadなど校内ネットワークをフル活用した授業が展開されていました。
授業について
探究活動×校外学習
番組を活用した授業は、高校1年生の「総合的な探究の時間」に行われました。
山脇学園は教育目標の一つに「自ら求め、深く学ぶ(自主・探究)」を掲げており、探究的手法を用いた志を育てる教育を行っています。
力を入れて取り組む探究活動には、6年間を通じて「校外学習」の機会も活用しています。高校1年生では、「自分が生きていく場所 自分が生きていく時代」をテーマに、高2の探究活動に向けた準備として、必要な知識・背景を知り議論をする中で、探究課題を模索していきます。
番組を活用した「平和学習」もその一環として、長崎・沖縄修学旅行に向けた事前学習、さらに来年度の個人探究活動のテーマ探しの入口として実施されました。
授業への活用に至るまで
1.相談
初めに、教育利用サービスの案内を見てくださった社会科の先生より、「総合的な探究の授業や修学旅行事前準備で、教室もしくは講堂で生徒たちに視聴させるためのコンテンツを貸し出してもらえないか」というご相談をいただきました。
2.使用番組候補の選定
使用番組を選定するにあたり、こちらから要望いただいたテーマに沿った番組をリストアップすることとなりました。
要望のあったテーマは次の通りです(一部抜粋)。
◆大枠のテーマ
高校生の修学旅行での学びに繋げる。生徒たち自ら平和について考える。
◆キーワード
平和学習・平和教育、沖縄戦、ひめゆり、基地問題~戦力不保持、日米安保、 長崎原爆、沖縄の文化・地域性・産業→政治・経済、沖縄の自然 など
◆求める視点
・日本人の視点、外国人の視点(例:原爆の是非など)の違い
・「沖縄・長崎の人の視点」と「それ以外の日本人の視点」
・九州・沖縄の放送局で制作された番組
この情報を基に、「沖縄戦」「戦後史」「本土復帰」「基地問題」「文化」「自然」というテーマで、テレビ72本、ラジオ15本の計87本の番組を公開番組の中からリストアップしました。この時、番組概要(あらすじ)の情報も提供しました。
3.候補番組の事前視聴
横浜近郊の学校ということで、先生方に放送ライブラリーまで来館してもらい、リストアップした中から気になった番組を視聴いただきました。
権利者の許諾を得る前のため、この時点ではまだオンラインで番組を視聴することが出来ません。メディアの貸し出しも行っておりません。
4.使用番組確定~権利処理作業
使用番組が確定し、当センターで権利処理作業に入りました。権利者からの利用許諾状況によっては、こちらでリストアップした番組であっても使用できない可能性があります。
5.使用番組の視聴開始
許諾が得られた番組から順次、山脇学園専用ページにアップし、IDとパスワードを発行したうえで視聴可能か確認いただきました。アップされた番組の視聴は、回数制限なく、場所を問わず再生可能です。
最終的に以下のような形で「平和学習」のプログラムが決定しました。
授業の様子
平和学習の最終回の第7回を見学しました(上の表参照)。授業冒頭、7クラスをZoomでつなぎ、修学旅行の旅程の説明が行われました。
旅程には、「探究学習×校外学習」となるプログラムが組み込まれています。青年海外協力隊のOB・OGによって組織された青年海外協力協会沖縄事務所(JOCA沖縄)の協力のもと、「平和な社会を作るには?」「海人文化を学ぶ」「水と暮らしの知恵」「三線を通して知る」などのフィールドワークとワークショップがあり、沖縄の人々と実際に交流できるようです。見学した内容をスライドにまとめ、発表する時間も修学旅行中に設けられています。
説明終了後、約25分間の番組上映が行われました。本サービスはIDごとの同時アクセス制限がないため、この日は各教室で専用ページにアクセスのうえ再生が行われました。
最終回のテーマは「長崎の原爆について知る」、上映番組は長崎文化放送『テレメンタリー2019 伝えてくるけん 広島長崎ピースメッセンジャー』。
この番組は、長崎の被爆者を祖母にもつ高校2年生の少女が、高校生平和大使に選ばれたのを機に、初めて祖母の原爆体験を聞き、広島長崎の声を世界に伝える旅を追ったドキュメンタリーです。
被爆の実態を伝える当時の映像も流れましたが、目を背けることなく集中して見入る姿が印象的でした。
番組終了後、各自で番組の感想をまとめました。手書きの感想は、その場で撮影してタブレット端末上で提出。昔は「後ろの人から紙を前に回して~」と先生が呼び掛けるところですが、今は提出までを自席で行うことが出来る!!この点は個人的に大変驚きました。
その後5~6名で班になり、先ほどの感想を共有する時間も設けられました。「自分の考えていた戦争は浅いものだった」「映像を見て戦争と向き合っていけるようにしたい」など、互いの感想に真剣に耳を傾けていました。
番組を視聴した感想~生徒より~
授業終了後、7名の生徒さんに、授業で放送番組を視聴した感想を伺いました。
―― 視聴した番組や、映像を授業で使用した感想を教えてください。
○自分では知ろうと思えなかったことを知ることができた。
○戦争があったという事実は知っていたが、(番組を通じて)そこに実際の人の姿があるのが衝撃的だった。
○苦手で触れることを避けていた戦争というテーマだが、様々な立場から実際に起きた事を聞くことができる良い機会となった。
○残酷なシーンがあってびっくりした。
○ショッキングな映像が多かったが、ちゃんと理解するためには必要だと感じた。
○過去の出来事を身近に感じることができた。
○集中できるので、一人で見るよりもみんなで見る方がいい。
―― 番組の長さ(30分程度)はどうでしたか?
○特に長く感じなかった。
○15分くらいがちょうどいいが、興味のある番組であれば長さは関係ない。
番組を利用した感想~先生より~
利用した感想や改善点などを担当の先生に伺いました。
―― 放送番組を授業に使用したことで良かった点などありましたか?
○教科書の文字情報だけでは実感が湧かなかった部分も、視覚に訴えかけることにより自分事として受け止めてもらうことができた。
○あえて昔の番組を鑑賞することで、制作当時に当たり前とされていた感覚と、現代の感覚を比較して発見を得られたと思う。
○昔の番組は手が込んでいて、古さを感じさせない。
○今の高校生は「自分の知らないもの=存在しないもの」という感覚でいる。映像で触れる機会がなかった、「戦争」を本当に知らない世代。番組を使用することで、生徒たちは「戦争」の存在を認識できた。
―― 授業を進めるにあたり、気を付けた点などありますか?
○センシティブな内容の映像が含まれる場合は、事前にアナウンスした。
○授業日程を組む際、いきなりハードな内容の番組を見せず、ドラマや沖縄文化の映像(第1・2回授業)から入った。
―― サービスの使い勝手はいかがでしたか?
講堂の大画面では古い映像は荒れてしまったが、使い勝手は良かった。番組の長さも30分くらいでちょうど良かったと思う。
―― 事前視聴に制限(来館のみ)があることについて不便を感じましたか?
○番組リストにあらすじが参考になったので、すごく不便を感じることはなかった。ただ、あらすじで受けた印象と、実際に番組を見た印象が異なる番組もあった。
○来館して視聴する場合も確認できる時間に限りがあるので、ダイジェストなどで見られるとありがたい。
―― 番組をリストアップした際に欲しかった情報があれば教えてください。
高校生に見せるために事前の判断が必要な場合がある。センシティブな内容の映像が含まれる場合は、予めその情報も加えてほしい。加えて、教科書の内容のうち、どの分野のテーマ・ポイントを扱っている番組なのか記載があると利用しやすい。
―― 他にどのような教科で活用の可能性があるでしょうか?
歴史総合は探究活動につながる科目でもあるので可能性がある。他は公共や国語の授業。授業内での議論のきっかけの題材としても活用できる。
おわりに
今回現場の生の声を伺い、番組を見ることが生徒さんたちにとって貴重な経験となると同時に、安心して番組を教材として活用してもらうためにも、事前に提供する番組情報の充実が必要であると感じました。
以前の記事でも書いた通り、中学・高校向け教育利用サービスは、2023年4月から本格運用を開始します。今後さらなるサービス向上に努めるとともに、教育現場について理解を深めながら運用を進めていこうと、思いを新たにしました。
ご協力いただいた山脇学園高等学校様、本当にありがとうございました!