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vol.3『mrt特別番組 30年越しのノーサイド』(宮崎放送/2018/30分)

放送ライブラリーで公開している数多の番組から、スタッフがお勧めしたい番組を連載形式でお届けするこの企画、今回はテレビ番組アーカイブ担当のSKからイチオシの番組を紹介します。

今回紹介するのは、
mrt特別番組 30年越しのノーサイド」(2018.05.24放送/宮崎放送)
です。

タイトルに「ノーサイド」とあることからわかるように、今まさにワールドカップが開催されているラグビーに関する番組です。(2023年10月現在)

番組紹介に先立って突然ですが、クイズです。
皆さんは高校ラグビー決勝で同点となった時、どのように勝敗を決めるかご存知ですか?
サッカーであればPK戦で勝敗を決めますね。
野球であれば延長戦を行い、それでも決まらなければ再試合が行われます。バスケットボールでは勝敗が決するまで延長戦が続きます。

では、高校ラグビーではどのように勝敗を決めるのでしょうか? 



答えはなんと「決めない」です。少し意地悪な問題でした。

高校ラグビーでは、決勝で同点の場合は、延長戦は行わず、「両校優勝」となります。しかし、地区予選など、次のカテゴリーに進むチームを決めなければならない場合、なんと「抽選」でどちらか1校を選ぶのです。
(決勝以外の試合は、トライ数やその後のゴール数で決め、それでも決まらない場合は、抽選となります)

一見残酷なようにも思えるこのルールですが、このルールがあったが故に、不思議な縁で結ばれたおじさんたちを取材したのが、今回ご紹介する番組です。

物語の始まりは遡ること30年以上、1987年の宮崎県。共に県内有数のラグビー強豪校である都城高等学校宮崎県立高鍋高等学校は、全国大会の舞台である花園への切符をかけて、県大会の決勝戦で相まみえました。決勝戦は両校とも譲らず、10対10の同点のまま、試合は終了します。

前述のルールの通り、両校優勝となりましたが、花園への切符は1枚しかありません。そこで両校のキャプテンによる「抽選」が行われ、その結果、都城高校が花園行きを掴んだのでした。

都城高校は花園でも快進撃を続け、宮崎県勢で最高となる全国ベスト4という華々しい成績を収めます。そして当時のメンバーは、後に日本代表でも活躍する永友洋司さん(現・横浜キヤノンイーグルスGM)や秋廣秀一さん(現・日体大ラグビー部監督)を始めとして、大学・社会人ラグビーでも活躍していくのでした。

一方、惜しくも花園行きを逃した高鍋高校の選手たちの中にスポーツ推薦などで大学に進んだ人は少なく、多くは県内に残り、中にはラグビーを諦めざるを得ない人もいました。

お互いに人生の転機となったにも関わらず、きちんと決着のつかなかった1987年の決勝戦。その決着を30年ぶりにつけようと高鍋高校側の提案で、試合が行われることになったのです。

試合当日、全国から元選手たちが集まりますが、かつて精悍なラガーマンだった選手たちもすっかり50歳手前のおじさんになってしまいました。それでも、当時と同じチームのユニフォームを着て、応援歌を歌い、かつての監督に檄を飛ばされ、心はすっかり高校生に戻ります。

そしていよいよ30年ぶりの決着をつける試合が始まります。


ところが試合が始まるとすぐに予想だにしない、いや予想通りの事態が起きます。気持ちばかりが前に出て、体が追い付かず、ケガ人が続出してしまうのです。それでもお構いなしに激しいタックルをし、土にまみれて転げまわるおじさんたち。その顔は本当に楽しそうでした。

そして遂に30年越しの決着をつけるノーサイドの笛が鳴り響きます。

試合後、グランド上には敵味方関係なく、お互いを称えあう男たちの姿がありました。

番組のタイトルにもありますが、ラグビーでは試合が終了することを「ノーサイド」と言います。この言葉は、試合が終われば、敵味方、勝ち負け関係なく、お互いを称えあうという紳士スポーツであるラグビーならではの精神を指します。この時の彼らたちの姿は、まさにこの「ノーサイドの精神」を体現しているようでした。

1987年当時高校生だった選手たちが、抽選での結果を受け入れることは難しかったのではないかと思います。特に花園への切符を逃した高鍋高校の選手たちは、もし全国へ行っていれば、将来日本代表として活躍していたのは自分だったかもしれない、そんな思いもあったことでしょう。
それでも何十年と経ち、お互いに人生経験豊富なおじさんとなり、再度真剣にぶつかり合うことで、そんな心のわだかまりも消えて、両チームはすっかり青春時代のひと時を共有した仲間となったようでした。

改めてラグビーというスポーツの素晴らしさを実感できる番組ですので、ワールドカップを見て、ラグビーに興味を持った方や、ラグビーをよくご存じの方も是非放送ライブラリーに来て、ご視聴いただけたらと思います。
(番組ID 213561)