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vol.5『ザ・ノンフィクション特別編 おじさん、ありがとう 子供たちへ…熱血和尚の遺言』(BSフジ/2020/99分)

放送ライブラリーで公開している数多の番組から、スタッフがお勧めしたい番組を連載形式でお届けするこの企画、今回ご紹介するのは、テレビ番組アーカイブ兼企画担当のNです。

私は小学生の息子の母親なのですが、子供の気持ちを考えずに、頭ごなしに怒ってしまうことがあります。そして罪悪感を感じることもしばしば…。

「どうしたら子供と良い関係が築けるだろうか」

そんなモヤモヤを抱えていた時に出会ったのが、
「ザ・ノンフィクション特別編 おじさん、ありがとう 子供たちへ…熱血和尚の遺言」(2020.01.19放送/BSフジ)です。

番組の冒頭は、ある寺での葬儀から始まります。

大勢の若者たちに別れを惜しまれながら、安らかな顔で棺の中で眠る住職。
住職の廣中さんは、「平成の駆け込み寺」と呼ばれた寺で、20年もの間、1000人以上の子供たちを救い、子供たちから“おじさん”と慕われていました。
棺を囲んでいる若者たちは、思春期をその寺で過ごした人々です。
非行、虐待、いじめ、ひきこもり…などの様々な事情を抱えた子供たちを無償で預かり、更生に導いていたのが、廣中さんです。

番組が寺の取材を開始したのは、インターネットを使ったいじめが急増した2000年代でした。

その頃、寺に新しくやってきたのは、バイクの窃盗を繰り返す少年と、深夜徘徊やリストカットをする少女。
彼らの非行の背景にあるのは、親の不仲や、寂しさなど様々です。
廣中さんはどんな時も子供たちのことを一番に考え、明るく穏やかに子供たちと接します。ただし、大事な場面では愛情を持ってきちんと叱る。

親以上の愛を子供たちに注ぐ廣中さん。子供だけでなく、不仲だった夫婦など大人たちも、廣中さんのおかげで変わっていきます。
そんな廣中さんもかつては不良で、担任の先生に助けられた経験がありました。「今はその恩返しをしているんだ」と語ります。

ある日、更生しかけていた少女が寺から無断で居なくなり、廣中さんは寺の子供たちと一緒に夜中まで街中を探します。仲良くしていた寺の子は「あんなに懐いてくれていたのに裏切られた」と打ちひしがれる様子。

数日後、ようやく少女が戻ってきました。廣中さんはまず、子供たちで「子供会議」を開くように言います。
涙ながらに本音でぶつかりあう子供たちの姿にハラハラしますが、廣中さんは一方的に自分が叱って、その場しのぎの反省で終わらせるのではなく、共に生活してきた仲間の気持ちになって考えてほしいと思ってのことでしょう。私も画面越しに、彼女の人生のターニングポイントに立ち会っているようでした。

晩年、廣中さんはステージ4の肺がんに侵され、闘病生活を送っていました。脳に腫瘍が転移し、言葉が出にくくなり、歩行もままならない状態ですが、「まだやらないければいけないことがある」と、献身的な奥さまに支えられながら、積極的に講演会や説法へ向かいます。
そんな矢先、寺の卒業生から「結婚式でバージンロードを一緒に歩いて欲しい」と頼まれます――。

番組を通して、子供は「自分の気持ちを真剣に汲んでくれているか」を敏感に察知することに改めて気づかされました。私も親として廣中さんに喝を入れられた気分です。
そして、自分の思春期時代を振り返ってみても、周りの大人だったり、仲間が切実に向き合ってくれたおかげで、良い方向に変われたことが何度もありました。その時は分かりませんでしたが、この番組の少年少女たちのように、大人になってから「あの時に厳しい言葉を掛けてくれたから、今の自分がいる」と心から思います。

皆さんも、この番組をきっかけに、思春期を支えてくれた人に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。

【放送ライブラリーの番組情報】
BSフジサンデースペシャル ザ・ノンフィクション特別編 おじさん、ありがとう 子供たちへ…熱血和尚の遺言 」