
vol.11『北斎ミステリー 幕末美術秘話 もう一人の北斎を追え!』(日本BS放送/2017/98分)
放送ライブラリーで公開している数多くの番組から、スタッフがお勧めしたい番組を連載形式でお届けするこの企画。今回は、NHK大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』にハマっている、テレビ番組アーカイブ兼企画担当のNが紹介します。
毎週『べらぼう』を観ていると、江戸時代の文化、とりわけ浮世絵に興味が出てきました。私のような人にお勧めしたいのが、日本BS放送(BS11)で放送された「北斎ミステリー 幕末美術秘話 もう一人の北斎を追え!」(2017.12.9放送)です。この番組は、日本民間放送連盟賞の番組部門 <テレビエンターテインメント番組>の最優秀賞に選ばれました。
番組の前半は、幕末の浮世絵師・葛飾北斎が西洋の美術界に与えた影響や、北斎の作品を現代の科学分析によって、どのように描かれていたかを検証しています。後半では、北斎の実の娘であり、「光の画家」と呼ばれた天才女流絵師・応為についてスポットを当て、父・北斎との関係にも迫りました。
国内外の美術館や北斎についての研究者、現存する最古の浮世絵工房などを取材していて、非常に見ごたえのある番組です。
北斎が生涯で残した作品は約3万点以上と言われています。そのジャンルは風景画、美人画、読み本の挿絵、着物のデザインなど多岐にわたり、今風に言うと、マルチクリエーター的な存在!
北斎の代表作と言えば、富士山を様々な地域と角度から描いた「富嶽三十六景」ですが、この作品を70歳を過ぎてから生み出していたことに驚きです。とてもバイタリティのある芸術家だったようです。
この「冨嶽三十六景」の46の図のうちのひとつ、2024年に改刷された千円札の裏側にも描かれている「神奈川沖浪裏」は、波を富士山よりもはるかに高く配置した構図になっています。現実に捕らわれない大胆な発想は、当時“写実第一”だった西洋ではありえないもので、海を渡って多くの世界的画家たちに影響を与えました。
…と、ここまでは、授業で習ったような気がするのですが、北斎も、長崎の出島で仕入れた西洋の絵画から、透視図法や色彩のグラデーションを参考に西洋風の絵画を描いていた可能性が高いことがわかりました。北斎の有名な作品を細かく見ると、当時の西洋の技法も見られ、画家たちがお互いに影響し合って、後世に残る作品を生み出し合っていたのだと感じます。
そして、世間ではあまり知られていない北斎の娘・応為。
(いつも父を「おーい」と呼んでいたことから、画号を応為としたという洒落たエピソードが番組で紹介されていました)
父の右腕として、共作も残していますが、一般的に広く知られてはおらず、存在が謎のベールに包まれてきました。
応為の作品は“光と影”を意識した表現が特徴的で、作品がいくつか番組に登場します。中でも印象的な作品は、吉原の花魁とそれを眺める人を描いた「吉原格子先乃図」。この作品の花魁はまるでかごの中の鳥、見世物のような状況で、虚しさ、儚さなどの心情が刻々と浮かんできました。父・北斎が描く、華やかな花魁とは対照的で、同性ならではの視点で描かれています。
このような素晴らしい画家がなぜ後世に名前を残せなかったのか。
この部分は、ぜひ番組を実際にご覧になっていただきたいのですが、これまで北斎の代表作と言われてきた作品の中にも、実は応為が父の代わりに描いたものがあったのではないか?と専門家は分析しています。
偉大な父の“影”となる自分への葛藤があり、その複雑な心情が作品にも表れていたのかもしれません。(番組ID 212582)<2025.2>