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【2023.6.2更新】震災セミナー2023 制作者に聞く!セミナーレポート(2023.3.19実施)

はじめに

3月19日に、震災セミナー2023 制作者に聞く!「あの日から12年~震災を見つめる」と題したセミナーを開催しました。

【開催概要】
日 時:2023年3月19日(日)
※2番組上映のあと、ゲストによるトーク
会 場:情文ホール(横浜市中区)
ゲスト:岳野高弘(福島中央テレビ)、手塚孝典(信越放送)
司 会:石井彰(放送作家)

今年の3月11日、東日本大震災から12年を迎えましたが、放送ライブラリーでは震災以降、テレビやラジオがどのように震災を伝えたか、さまざまな催事を通じ伝えてきました。

【過去の主なセミナー】
番組上映会&公開セミナー 東日本大震災・報道記者は何を伝えたか  (2011.10.22/情文ホール)
『NNNドキュメント'11-'12 3・11大震災シリーズ』番組上映会&公開セミナー  (2012.3.20/情文ホール)
番組上映会&公開セミナー『3・11大震災、そして福島原発事故を忘れな い! 最新受賞番組から』(2013.3.9/東京都・千代田会館ホール)
番組上映会&公開セミナー 『今、福島から伝えること〜3・11大震災・福島原発事故を忘れない!〜』(2014.3.22/東京都・千代田放送会館ホール)
テレビが記録した3.11から4年 東日本大震災・福島原発事故を忘れない!(2015.3.22/情文ホール)
被災地から明日へ ~東日本大震災・福島原発事故を忘れない!~ (2016.3.18/宮城県・せんだいメディアテーク)

今回は、震災から10年目の2021年に放送され、数々の賞を受賞した福島中央テレビと信越放送の2番組を取り上げ、前半は上映・後半は両番組の制作者によるセミナーが行われました。

前半・上映(取り上げた番組)

前半は途中休憩を挟みながら、この2番組の上映が行われました。

1Fリアル あの日、原発の傍らにいた人たち(福島中央テレビ/2021.9.11放送)

<番組概要>
2011年3月、史上最悪の事故を起こした福島第一原発・通称1F(イチエフ)。その原発のすぐ傍らにいた人たちがいた。原発の安全神話、日本の技術力神話の崩壊の瞬間を目の当たりにした人たち。
そこでは一体何が起きていたのか・・・。水素爆発で空からガレキが降ってくる建屋のすぐ傍らにいる人たちは、死と隣り合わせの現場に何度も突入していった。震災から10年経った今、地元テレビ局に語られた証言。それらは後世に伝えるべきものばかりだった。被ばくの恐怖と闘いながら決死の覚悟で原発の暴走を食い止めた人たちが語る、克明な現場の状況と彼らの思いを綴った迫真のドキュメンタリー。
<受賞>第59回 ギャラクシー賞 テレビ部門 大賞、
2022年 日本民間放送連盟賞 番組部門テレビ報道 優秀

SBCスペシャル まぼろしのひかり ~原発と故郷の山~(信越放送/2021.3.10放送)

<番組概要>福島第一原発の事故で何が奪われ、失われたのか。人々は何を取り戻そうとしたのか。長野県と縁のある人たちを中心に、帰還困難区域が解除されない町や村で生きる人々の現在とその軌跡をたどり、あらためて10年という歳月の意味を見つめた。
原発推進を進めた福島第一原発の元副所長、戦後満州から帰還し新天地を求めて入植した故郷を原発事故で追われた人、今もなお帰還困難区域として立ち入りが規制されている集落の住民・・・。原発事故から10年。何かが終わったわけでも解決したわけでもない。国策に翻弄された人々が語る歴史と今を見つめた心を揺さぶる秀作ドキュメンタリー。
<受賞>2021年 日本民間放送連盟賞 番組部門テレビ報道 優秀、
第41回「地方の時代」映像祭2021 放送局部門 優秀賞

2作品を通じて、私たちが見ていた報道映像の裏で、あの日あの時何があったのか、そこにいた人たちの姿を通して改めて思いを寄せるきっかけとなったように思えます。

終了後のアンケートでは、「2作品ともインパクトの強い内容で、感動した」「改めて知ったこと、知らなかったことがあった。このような映像を1年に1度は見たい」と番組の感想が寄せられました。
なお、この2番組は放送ライブラリーの8階視聴ブースでもご覧いただけます。

後半・セミナー

後半は制作者の方に登壇いただき、先ほど上映した番組について取材の苦労、今後の取材活動についてなど、制作現場の生の声を伺いました。

登壇者プロフィール

岳野 高弘(たけの・たかひろ)
『1Fリアル あの日、原発の傍らにいた人たち』ディレクター、福島中央テレビ 報道部 デスク     ※肩書はセミナー開催当時

1979年、長崎県長崎市生まれ。2004年、福島中央テレビに記者として入社。県警、県政などを担当し、東日本大震災後に報道部デスク勤務。
その後、支社勤務を経て、2021年から本社報道デスクに復帰。夕方のニュース番組『ゴジてれChu!』第三部 を担当しながら、全国向けのドキュメンタリー「NNNドキュメント」の取材、制作も担当する。
これまでに『原発が壊した牛の村 ~飯舘へ いつか還る日まで~』(2011年)、『被ばく牛‘たまみ’』(15年)、『ここで、生きた ~原発に奪われた私の家~』(18年)、『闘う君 ~Fukushima 後も変わらないもの~』(20年)などを制作。
東日本大震災や原発事故をテーマに取材を続けるほか、被爆三世でもあり、原爆や核に関する取材も続けている。

手塚 孝典(てづか・たかのり)
『まぼろしのひかり ~原発と故郷の山~』プロデューサー、信越放送 制作部 主幹

1965年、松本市生まれ。同志社大学文学部哲学科卒。広告会社勤務を経て1997年信越放送入社。制作部ディレクター、プロデューサーとしてSBCスペシャル(水曜よる7時~放送)などを担当。
ドキュメンタリーでは、20年以上に渡り、戦争中の満蒙開拓を取材して、これまでに10作品を制作。『刻印~不都合な史実を語り継ぐ~』(2014年)が日本民間放送連盟賞最優秀を受賞したほか、『遼太郎のひまわり~日中友好の明日へ~』(13年)、『少年たちは戦場へ送られた』(10年)がいずれも同賞優秀を受賞。『残された刻~満州移民・最後の証言~』(09年)が「地方の時代」映像祭で佐藤真賞、『棄民哀史』(15年)が選奨を受賞。
ほかに『福太郎の家』(ギャラクシー選奨・08年)、東日本大震災で行方不明となった娘を探し続ける父親が主人公の『汐凪の花園~原発の町の片隅で~』(民放連賞優秀・19年)など。著書に『幻の村―哀史・満蒙開拓』(早稲田新書・21年)。

石井彰(いしい・あきら)/司会・放送作家

1955年、長野県生まれ。音楽事務所、番組制作会社を経て放送作家。ラジオ・テレビで数多くのドキュメンタリー番組を構成している。
東日本大震災では、東北放送、IBC岩手、ラジオ福島をつなぐ震災復興ラジオ特別番組を3年間構成。また富山テレビ放送が制作した、震災発生時に宮城県にいた富山の薬売り商人のその後を描いた『歩いています 東北に生きる富山の薬売り』(2012年)、テレビ信州が制作した、長野県北部地震で大きな被害を受けた栄村の限界集落に密着した『安五郎さんの集落 豪雪の栄村坪野に生きる 』(13年)を構成。立教大学社会学部兼任講師。

セミナーのようす

◆『1Fリアル』制作秘話

まず1本目に上映した『1Fリアル』について、トークが展開しました。

―― なぜ10年目にこの番組を作ろうと思ったのか
岳野
:地元として何か作らなきゃいけないと感じた。番組の中の原発事故の映像は95%くらい世の中に出ている映像。断片的に沢山の事実が集まっているが、それを流れで見せたいと思ったことがきっかけ。事実を集めた番組を作ることで、後世の人が原発事故を知る入口の資料となるような番組になればと思った。

―― 手塚さんが番組を見た感想は?
手塚:知っていたつもりになっていたが、知らなかったことも多い。細かな時間軸で見ていくと、リアルに迫ってくるものがある。現場の人の姿を見るにつれて、現場の人の使命感に背負わせてしまった責任を考えないといけないと思った。

番組には、"あの日傍らにいた人”が登場し、当時の状況を証言しています。そうした方々について、
岳野:どんな被害が起きているのかという取材はしていたが、原発そのもので何が起きていたのかは、大きなテレビ局に任せていて手つかずだった。そのため、取材を始める直前まで関係者を知らなかった。地元の企業の方々も避難しているので、どこに関係者が避難したか誰も知らなかったため、どうにかして捜し出した。

ようやく捜しあてた関係者の方々と話せば話すほど、新しく知る事実が出てきたと岳野さんは言います。番組には、自衛隊元統合幕僚長・折木良一さんの証言など、これまで直接聞くことのできなかった事実が含まれています。
石井さん曰く、取材する人すら知らない事実が多いほど豊かな番組になるとのこと。まさに1Fリアルはそんな番組になりました。

―― 制作にあたり大変だったことは?
岳野:この10年で何が報道されたのか、どういう事実があったのか総ざらいし、整理するのが大変だった。
また、番組を通じて、どういうことを表現するのか考えておくのかが悩ましかった。最終的には、視聴者が各々意見をもってくれれば良いと思った。

手塚:自分も(何を表現するか)答えを置かない。視聴者が一旦受け止めて考える。これができるのが良い番組だと思う。

◆『まぼろしのひかり』ができるまで

―― 岳野さんが番組を見た感想は?
岳野:
空になった(無人で荒れた)牛舎など福島の映像は改めてすごいなと。その時だけの側面でなく歴史的な流れから捉えられており、色々考えさせられる。

1Fリアルを制作した岳野さんは福島県のテレビ局員ですが、『まぼろしのひかり』を制作した手塚さんは、長野県にある信越放送の局員。しかしながら、この番組では他県である福島をあえて取り上げています。

―― 手塚さんは、なぜ福島を取り上げようと思ったのか?
手塚:福島の放送局だと原発や震災が生活そのものの取材になっている。しかし他県は年に数回くらいしか触れない。一方で長野にも避難して来ている人々がいるので、人ごとにしてはいけない。自分たちの隣人の問題を共有しなくてはいけない。福島を考えるときに、別の視点も必要ではないかと思った。もともとを満蒙開拓に関連して(番組に登場する)岩間さんを取材をしていた。満蒙開拓の視点から福島を見ると、別の見え方をするのではないかと思った。

石井さんは「地元を背負っているからできること・できないこと、他県だけどできることがある」と指摘します。原発についての取り上げ方も、それぞれの立場で異なります。

岳野:生活が潤った面もあるので、原発そのものが悪なのかと言われると難しい。なので、是々非々で伝え続けている。

手塚:福島で常識とされている事実を長野では知らない。常識に対しての疑問の提示や批判することが難しい福島の人の声を、他県の人間なら拾えるのかなと思っている。

◆震災報道のこれまでとこれから
セミナー終盤では、震災後の12年でどのような報道が行われ、今後どのような報道が必要かについて、各登壇者から意見が出されました。

――震災報道の12年を振り返って
石井:
今の震災番組は、あの時こうすればよかったという後悔ばかり。
だから岳野さんの振り返りと掘り下げ方や、手塚さんの広い歴史から取り上げる番組は新鮮。地震・津波・原発事故という今までにない複合災害だったのだから、色々な視点の番組があっていいと思う。

岳野:まだ情報として入れられなかった部分もある。局所的な話の一方で、被爆国なのになぜ原発だったのか、歴史の流れの面からももっと掘り下げられる。Z世代などに身近なものとして提示できるものがあると良い。

手塚:破綻をきたすと個人に責任がのしかかるという点で、原発と満蒙開拓は通じる部分があり、福島だけの問題とはならない。日本社会の普遍的な問題として、各地域の視点にひきつけて考えようとすることができる。

――今後どのように他県が福島を取り上げていくか?
岳野:他県ですごく取り上げてほしいとは思わない。その人なりの視点をもった記者が取材に来てくれるとありがたい。

手塚:国策は成立するのか?復興はうまく進んでいるのか?こうしたことをこれからどう取材していくかが問われている。満州と原発という大きな夢を掲げて、不都合な部分に目を向けなくなっていた。これは一つの大きな教訓だと思う。ミクロな視点とマクロな視点がこれからも必要だと考えられる。

岳野さんの「その人なりの文脈を持って取材してほしい」というコメントを受け、石井さんはこれから放送人である自分自身が何をしなくてはいけないと考えるか?という事を最後に問いかけました。

岳野:テレビは不特定多数に見てもらえるが、特に若い世代はテレビを見ない人が多くなっている。報道の使命を果たすためにテレビだけで情報を出すのはなく、出し方を変える。それはひいては作り方を変えることになる。ネットで見てもらうためのニュース=見てもらいたい人に焦点を当てた作り方をしないといけない。

手塚さんもテレビ離れを指摘したうえで、
手塚:バランスを考えすぎて、どのチャンネルも同じような番組になっている。むしろテレビを見ないのであれば、もっととがったものを作り、それを面白がって見てくれる人がいれば、ネットでも通用するのではないか。色々な視点で番組を作れば良いのではないかと思う。

おわりに

上映そしてセミナーを通じて震災・原発、そしてそれを取り巻く報道のことを考えた濃くもあっという間の3時間でした。
参加者からは「自分の中で震災を風化させない手助けになる良い機会になった」「番組を作った方に話を聞けたことで、作り手の思いがストレートに伝わってきた」という声をいただきました。

今回登壇した岳野さんと手塚さんは、異なる地域の制作者ではありますが、時が経ち風化していく中で、どのように震災の事を伝えていくべきかを常に見据えて報道に携わっている点で共通していると感じました。

放送ライブラリーという立場でも、こうした番組を公開するだけでなく定期的に上映し、セミナーなどを通じて制作者の思いを伝える機会を作り続けることの大切さを実感しました。

年度末のお忙しい中登壇いただいた岳野さん、手塚さん、司会の石井さん、そして当日ご参加いただいた皆様ありがとうございました!

(2023.6.2更新)
YouTubeに本セミナーの模様を公開いたしました!ぜひご覧ください。