【2023.6.2更新】震災セミナー2023 制作者に聞く!セミナーレポート(2023.3.19実施)
はじめに
3月19日に、震災セミナー2023 制作者に聞く!「あの日から12年~震災を見つめる」と題したセミナーを開催しました。
今年の3月11日、東日本大震災から12年を迎えましたが、放送ライブラリーでは震災以降、テレビやラジオがどのように震災を伝えたか、さまざまな催事を通じ伝えてきました。
今回は、震災から10年目の2021年に放送され、数々の賞を受賞した福島中央テレビと信越放送の2番組を取り上げ、前半は上映・後半は両番組の制作者によるセミナーが行われました。
前半・上映(取り上げた番組)
前半は途中休憩を挟みながら、この2番組の上映が行われました。
1Fリアル あの日、原発の傍らにいた人たち(福島中央テレビ/2021.9.11放送)
SBCスペシャル まぼろしのひかり ~原発と故郷の山~(信越放送/2021.3.10放送)
2作品を通じて、私たちが見ていた報道映像の裏で、あの日あの時何があったのか、そこにいた人たちの姿を通して改めて思いを寄せるきっかけとなったように思えます。
終了後のアンケートでは、「2作品ともインパクトの強い内容で、感動した」「改めて知ったこと、知らなかったことがあった。このような映像を1年に1度は見たい」と番組の感想が寄せられました。
なお、この2番組は放送ライブラリーの8階視聴ブースでもご覧いただけます。
後半・セミナー
後半は制作者の方に登壇いただき、先ほど上映した番組について取材の苦労、今後の取材活動についてなど、制作現場の生の声を伺いました。
登壇者プロフィール
岳野 高弘(たけの・たかひろ)
『1Fリアル あの日、原発の傍らにいた人たち』ディレクター、福島中央テレビ 報道部 デスク ※肩書はセミナー開催当時
手塚 孝典(てづか・たかのり)
『まぼろしのひかり ~原発と故郷の山~』プロデューサー、信越放送 制作部 主幹
石井彰(いしい・あきら)/司会・放送作家
セミナーのようす
◆『1Fリアル』制作秘話
まず1本目に上映した『1Fリアル』について、トークが展開しました。
―― なぜ10年目にこの番組を作ろうと思ったのか
岳野:地元として何か作らなきゃいけないと感じた。番組の中の原発事故の映像は95%くらい世の中に出ている映像。断片的に沢山の事実が集まっているが、それを流れで見せたいと思ったことがきっかけ。事実を集めた番組を作ることで、後世の人が原発事故を知る入口の資料となるような番組になればと思った。
―― 手塚さんが番組を見た感想は?
手塚:知っていたつもりになっていたが、知らなかったことも多い。細かな時間軸で見ていくと、リアルに迫ってくるものがある。現場の人の姿を見るにつれて、現場の人の使命感に背負わせてしまった責任を考えないといけないと思った。
番組には、"あの日傍らにいた人”が登場し、当時の状況を証言しています。そうした方々について、
岳野:どんな被害が起きているのかという取材はしていたが、原発そのもので何が起きていたのかは、大きなテレビ局に任せていて手つかずだった。そのため、取材を始める直前まで関係者を知らなかった。地元の企業の方々も避難しているので、どこに関係者が避難したか誰も知らなかったため、どうにかして捜し出した。
ようやく捜しあてた関係者の方々と話せば話すほど、新しく知る事実が出てきたと岳野さんは言います。番組には、自衛隊元統合幕僚長・折木良一さんの証言など、これまで直接聞くことのできなかった事実が含まれています。
石井さん曰く、取材する人すら知らない事実が多いほど豊かな番組になるとのこと。まさに1Fリアルはそんな番組になりました。
―― 制作にあたり大変だったことは?
岳野:この10年で何が報道されたのか、どういう事実があったのか総ざらいし、整理するのが大変だった。また、番組を通じて、どういうことを表現するのか考えておくのかが悩ましかった。最終的には、視聴者が各々意見をもってくれれば良いと思った。
手塚:自分も(何を表現するか)答えを置かない。視聴者が一旦受け止めて考える。これができるのが良い番組だと思う。
◆『まぼろしのひかり』ができるまで
―― 岳野さんが番組を見た感想は?
岳野:空になった(無人で荒れた)牛舎など福島の映像は改めてすごいなと。その時だけの側面でなく歴史的な流れから捉えられており、色々考えさせられる。
1Fリアルを制作した岳野さんは福島県のテレビ局員ですが、『まぼろしのひかり』を制作した手塚さんは、長野県にある信越放送の局員。しかしながら、この番組では他県である福島をあえて取り上げています。
―― 手塚さんは、なぜ福島を取り上げようと思ったのか?
手塚:福島の放送局だと原発や震災が生活そのものの取材になっている。しかし他県は年に数回くらいしか触れない。一方で長野にも避難して来ている人々がいるので、人ごとにしてはいけない。自分たちの隣人の問題を共有しなくてはいけない。福島を考えるときに、別の視点も必要ではないかと思った。もともとを満蒙開拓に関連して(番組に登場する)岩間さんを取材をしていた。満蒙開拓の視点から福島を見ると、別の見え方をするのではないかと思った。
石井さんは「地元を背負っているからできること・できないこと、他県だけどできることがある」と指摘します。原発についての取り上げ方も、それぞれの立場で異なります。
岳野:生活が潤った面もあるので、原発そのものが悪なのかと言われると難しい。なので、是々非々で伝え続けている。
手塚:福島で常識とされている事実を長野では知らない。常識に対しての疑問の提示や批判することが難しい福島の人の声を、他県の人間なら拾えるのかなと思っている。
◆震災報道のこれまでとこれから
セミナー終盤では、震災後の12年でどのような報道が行われ、今後どのような報道が必要かについて、各登壇者から意見が出されました。
――震災報道の12年を振り返って
石井:今の震災番組は、あの時こうすればよかったという後悔ばかり。
だから岳野さんの振り返りと掘り下げ方や、手塚さんの広い歴史から取り上げる番組は新鮮。地震・津波・原発事故という今までにない複合災害だったのだから、色々な視点の番組があっていいと思う。
岳野:まだ情報として入れられなかった部分もある。局所的な話の一方で、被爆国なのになぜ原発だったのか、歴史の流れの面からももっと掘り下げられる。Z世代などに身近なものとして提示できるものがあると良い。
手塚:破綻をきたすと個人に責任がのしかかるという点で、原発と満蒙開拓は通じる部分があり、福島だけの問題とはならない。日本社会の普遍的な問題として、各地域の視点にひきつけて考えようとすることができる。
――今後どのように他県が福島を取り上げていくか?
岳野:他県ですごく取り上げてほしいとは思わない。その人なりの視点をもった記者が取材に来てくれるとありがたい。
手塚:国策は成立するのか?復興はうまく進んでいるのか?こうしたことをこれからどう取材していくかが問われている。満州と原発という大きな夢を掲げて、不都合な部分に目を向けなくなっていた。これは一つの大きな教訓だと思う。ミクロな視点とマクロな視点がこれからも必要だと考えられる。
岳野さんの「その人なりの文脈を持って取材してほしい」というコメントを受け、石井さんはこれから放送人である自分自身が何をしなくてはいけないと考えるか?という事を最後に問いかけました。
岳野:テレビは不特定多数に見てもらえるが、特に若い世代はテレビを見ない人が多くなっている。報道の使命を果たすためにテレビだけで情報を出すのはなく、出し方を変える。それはひいては作り方を変えることになる。ネットで見てもらうためのニュース=見てもらいたい人に焦点を当てた作り方をしないといけない。
手塚さんもテレビ離れを指摘したうえで、
手塚:バランスを考えすぎて、どのチャンネルも同じような番組になっている。むしろテレビを見ないのであれば、もっととがったものを作り、それを面白がって見てくれる人がいれば、ネットでも通用するのではないか。色々な視点で番組を作れば良いのではないかと思う。
おわりに
上映そしてセミナーを通じて震災・原発、そしてそれを取り巻く報道のことを考えた濃くもあっという間の3時間でした。
参加者からは「自分の中で震災を風化させない手助けになる良い機会になった」「番組を作った方に話を聞けたことで、作り手の思いがストレートに伝わってきた」という声をいただきました。
今回登壇した岳野さんと手塚さんは、異なる地域の制作者ではありますが、時が経ち風化していく中で、どのように震災の事を伝えていくべきかを常に見据えて報道に携わっている点で共通していると感じました。
放送ライブラリーという立場でも、こうした番組を公開するだけでなく定期的に上映し、セミナーなどを通じて制作者の思いを伝える機会を作り続けることの大切さを実感しました。
年度末のお忙しい中登壇いただいた岳野さん、手塚さん、司会の石井さん、そして当日ご参加いただいた皆様ありがとうございました!
(2023.6.2更新)
YouTubeに本セミナーの模様を公開いたしました!ぜひご覧ください。