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Vol.6『精魂 芹沢銈介』(NHK/1976/30分)

 放送ライブラリーで公開している数多くの番組から、スタッフがお勧めしたい番組を連載形式でお届けする企画、今回ご紹介するのは、テレビ番組アーカイブ担当のKです。

 何となく日頃目に入っていた、美しく図案化された文字や、沖縄の紅型のような明るい色使いの絵柄が、芹沢銈介(せりざわけいすけ)という方の作品だと知ったのは、大原美術館の工芸館を訪ねた時でした。芹沢銈介という名前はご存じなくても、作品をご覧になれば多くの方は「あぁ、あれか!」と思われるのではないでしょうか。

 芹沢銈介氏(1895-1984)は伝統的な染織技法である「型染(かたぞめ)」を独自の「型絵染(かたえぞめ)」に発展させ、重要無形文化財保持者(人間国宝)に認定された染色家です。「人間国宝」と言っても、親しみやすい作風で、身近なマッチ箱やお菓子の包装紙、のれんや風呂敷など、生活用品も多数手がけました。

 芹沢氏は1984年に88歳で亡くなられましたが、この『精魂 芹沢銈介』(1976.09.15/NHK)では81歳の姿を見ることができます。番組はまず作品の紹介と、型絵染の工程を説明した後、芹沢氏が「文字入り四季図四曲屏風」を制作する様子を、じっくりと見せてくれます。筆で下絵を描き、小刀で型を彫り、糊で型付けされた布に色をつけていきます。ナレーションは最初の説明だけで、BGMは一切ありません。時折、芹沢氏本人のインタビュー音声が添えられるだけで、筆を走らせる音や、小刀でぐいぐい切っていく音が心地よく耳に響きます。

 シンプルで洗練された作品がどのように作られるのか、興味津々で見ていると、下書きの上から墨で下絵を仕上げる時、意外なことに、線がずれたり、線のなかったところに描いたり、微妙に形が変わっていくのに驚きました。下書きにとらわれず、臨機応変に自由に作ることで、面白いものができるのだと芹沢氏は語ります。

 耳をすませば、外で鳥が鳴く声や電車の走る音が聞こえます。まるで芹沢氏の仕事場にお邪魔して、間近に見学しているようです。48年前の番組ですから、現在の2Kや4Kの高精細の美しさはありません。それでも、放送当時は幼かった私が現在こうして生前の制作風景を見ることができることには、代えがたい価値があると感じます。

 芹沢銈介氏に興味を持たれた方には、『小さな美の殿堂・街道の美術館 芹沢銈介美術館』(1993.09.14放送/NHK 番組ID:009634)もお勧めです。芹沢氏の出身地である静岡市の、登呂遺跡公園の一角にある「静岡市立芹沢銈介美術館」が紹介されていて、館内を散策する気分を味わえます。

 放送ライブラリーには、ほかにも画家陶芸家、音楽家伝統工芸などに関する番組を多数公開しています。また、4月26日(金)~5月26日(日)には、番組上映会「BLセレクション 美しい日本の手仕事~職人の技を旅する~」を開催します。番組を見ながらアートなひと時を過ごされてはいかがでしょうか。

(番組ID 002553)<2024.4>