「番組アーカイブの意義と未来への活用2022~教育・研究利用の新たなる展開 」セミナーレポート
放送番組センターでは、大学の授業や図書館などの公共施設を対象に、放送ライブラリーの番組を利用してもらうサービスを2013年度から開始しています。
このサービスは、放送ライブラリーで一般公開している放送番組の中から、大学の教員や図書館の職員などが選んだ番組を、インターネットを利用して送信し、教材や視聴覚資料として利活用してもらうものです。
2020年度からは、中学・高校などの授業への対応も始め、これまで複数の教育機関や公共施設がこのサービスを利用しています。
【大学向け】放送ライブラリーの公開番組を教材に 利用者募集 - お知らせ (bpcj.or.jp)
【公共施設向け】放送ライブラリー公開番組ストリーミングサービス利用のご案内 - お知らせ (bpcj.or.jp)
このサービスの利用促進を図るため、毎年、上智大学メディア・ジャーナリズム研究所と共催で、番組利活用の取り組みや映像アーカイブの意義を伝える公開セミナーを実施しています。
2022年11月には、6回目となる共催セミナーを上智大学で開催しました。
今回は、番組制作者や授業に番組を利活用している大学教授、また映像の教育活用に取り組む放送事業者などを招き、放送番組センターの番組利活用の現状、および各登壇者の取り組みの報告後、番組を使用した大学での授業の成果や、番組アーカイブの利活用の新たな展開の可能性についてディスカッションを行いました。
活動報告
松山先生報告~教員の立場から~
2022年度の授業で実施した、毎日放送との連携講座について報告がありました。授業は、毎日放送の「映像」シリーズ(※)のディレクターを中心に、カメラマンや海外特派員など、様々な業務に携わる毎日放送の局員がリレー形式で毎週登壇し、講義とディスカッションを行うという内容でした。
※1980年4月に「映像’80」のタイトルでスタートした関西初のローカル・ドキュメンタリー番組。月1回、日曜日深夜に放送中。
全15回講義のうち、ドキュメンタリーやジャーナリズムをテーマとした授業では、学生は「映像」シリーズの番組を放送番組センターの仕組みを使用して事前に視聴してから臨みました。
松山先生は、「事前に見た番組の制作者が実際に来ることの意味はとても大きかった。生身の人間が番組を作っていることに視聴者は気付きにくい。放送番組のアーカイブを利用することは成熟期に入ったと思う。これからは更に何ができるか、できないかの話を深める時代に入ったと思う」
と、この連携講座を通じて気づいたことを話しました。
奥田さん報告~制作者の立場から~
奥田さんは、前述の「映像」シリーズに長年携ってきました。番組が取り上げるテーマや地域は多岐にわたり、40年間で500本を超える作品が制作されました。
「作品の数々を見直すうち、このアーカイブを見ていただく方法はないだろうか」と思い、シンポジウムやアーカイブ配信、大学で反転授業(自宅で映像等を視聴してから授業を行う授業形態)など、制作者の立場から多くの人に番組を視聴してもらう取り組みを行いました。
松山先生の授業のほか、上智大学や同志社大学でも反転授業を実施。
受講生の感想から「学生たちにとっても、新しい授業の受け方となり、おおむね好評だった」と振り返りました。
加藤さん報告~放送事業者の立場から~
加藤さんは、NHKで番組編成や著作権関連の業務に携わってきました。
NHKエンタープライズが大学向けに提供する『オンライン授業用番組ライブラリー』にも立ち上げから携わっています。
この番組ライブラリーは、映像制作を学ぶ人たちだけではなく、社会そして人間を知るため、さらに世界を学ぶために番組を生かしてもらおうという、いわゆるリベラルアーツを学ぶことを目的としています。
「NHKスペシャル」「映像の世紀」「プロジェクトX」や「100分de名著」など、幅広いジャンルからラインアップするよう心がけているそうです。
『オンライン授業用番組ライブラリー』立ち上げの経緯について、
「番組などの動画コンテンツは文献に勝るとも劣らない一級の学術資料でもある」「政治、文化、芸術、社会問題などあらゆる事象が映像に記録されている。貴重な資料をできるだけ社会に還元していきたい」
と、話しました。
パネルディスカッション
奥田さんは反転授業について番組制作者の立場から「若い人たちの声を直接聞けるのは非常に新鮮で発見もある」「深く多様な質問をしてもらえる機会が増え、登壇した局員たちからは、非常に手応えを感じた、という意見が多かった」と振り返りました。
加藤さんは映像を使って学ぶことについて「若い人は、情報を得るのにも、友達とのコミュニケーションにも、遊ぶ時にも、SNSや配信サイトで映像を使っているのに、どういうわけか勉強する時には活字になる。映像は、学問や研究の手段や対象としてもっと活用されていい」と語りました。
松山先生は番組アーカイブの現状について「各地にあるアーカイブ機関や放送局同士で連携ができていないことが問題。どの放送局にどれぐらい映像があるか、全く分からない。それらの情報を集約し、どこに行けばどの番組を見られるかが分かるリストがあることが一番の理想だ」と話しました。
最後に音先生が「放送は信頼性を担保できる情報を提供する装置である。今の放送番組だけでなく、これまでの番組を含めて展開する場所としてアーカイブがあり、そのアーカイブを展開する場所として、大学や博物館、図書館等をネットワークしていくことが大事だと思う。それには日本的なやり方を構築することが必要だ」とセミナーを締めくくりました。
セミナーの模様はYouTubeからもご覧いただけます。このセミナーをきっかけに、授業での番組利用についてご興味を持たれた方は、ぜひ一度放送番組センターまでお問い合わせください。
詳細は以下のページご参照ください。
【大学向け】放送ライブラリーの公開番組を教材に 利用者募集 - お知らせ (bpcj.or.jp)
【公共施設向け】放送ライブラリー公開番組ストリーミングサービス利用のご案内 - お知らせ (bpcj.or.jp)
(参考)これまでの上智大学との共催セミナー
各回のセミナー内容は、リンク先の機関紙PDFで閲覧可能です。
第1回(2017.11開催):https://www.bpcj.or.jp/activity/BLR_no33.pdf
第2回(2018.11開催):https://www.bpcj.or.jp/activity/BLR_no37.pdf
第3回(2019.11開催):https://www.bpcj.or.jp/activity/BLR_no41.pdf
第4回(2020.11開催):https://www.bpcj.or.jp/activity/BLR_no45.pdf
第5回(2021.11開催):https://www.bpcj.or.jp/activity/BLR_no49.pdf