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vol.10『金曜ドラマシアター 怪談』(フジテレビジョン/1992/95分)

放送ライブラリーで公開している数多の番組から、スタッフがお勧めしたい番組を連載形式でお届けするこの企画、今回は管理部のMKからイチオシの番組を紹介します。

今回紹介するのは、金曜ドラマシアター 怪談」(フジテレビジョン/1992/95分)です。

1992年のドラマと言えば、社会現象を巻き起こした「ずっとあなたが好きだった」(TBS)や若者に支持された「愛という名のもとに」(フジテレビ)が放送された年ですが、今回紹介する「金曜ドラマシアター 怪談」はそれら作品と同時期に放送された作品です。

怪談というと四谷怪談や学校の怪談、皿屋敷など幅広い怪奇話を指すジャンルの総称でも使われますが、このドラマで扱っている怪談は小泉八雲の「怪談」です。小泉八雲と言えば、2025年後期のNHK「連続テレビ小説 ばけばけ」のモデルで、先日「ばけばけ」のキャストが発表されたことでも話題になりました。

「金曜ドラマシアター 怪談」は3つの短編ドラマを纏めたオムニバス形式の作品です。脚本は全て劇作家としても有名な岸田理生さんが手がけています。
そして、作品冒頭やこの3つの物語を繋ぐ存在として小泉八雲扮するストーリーテラーが登場し、視聴者を怪談の世界へ誘導してくれます。

3つの物語をそれぞれ紹介していきます。



まず、1つ目の物語は「耳なし芳一」です。
演出は、「時間ですよ」や「寺内貫太郎一家」も手掛けた久世光彦さんが担当されています。
「耳なし芳一」は怨霊に取り憑かれた琵琶法師の芳一が、お経を全身に書き、殺されるのを防ごうとしますが、耳だけお経を書き忘れられた結果、怨霊に耳を切り取られてしまうという非常に有名な怪談話です。
しかし、このドラマではストーリーにいくつかオリジナルの要素も加えられています。例えば、芳一(三上博史)に取り憑く霊は二位の尼(中村久美)で、芳一が二位の尼に魅了され、色欲に溺れる様が描かれています。その上、度々芳一を誘惑し、二位の尼の亡霊に嫉妬する女・お志津(中村久美)というキャラクターも登場したり、芳一と二位の尼の濡れ場描写もあったりと、原作とは違い、非常に艶やかな作品に仕上がっています。
そして、耳のお経に関しても、原作では住職が書き忘れたという設定ですが、ドラマでは初めは耳にもお経が書かれていたにも関わらず、自分は現世を捨てることはできないから、せめてもと自ら水で耳のお経を落とし、奏者の命とも言える耳を二位の尼に持って行くよう差し出しています。
二位の尼が全身お経が書かれた芳一がいる部屋の封印を破るシーンなどでは、当時の映像技術を駆使した壮大で緊迫感のある世界観を味わうことができます。



2つ目の物語は「むじな」です。
演出は三輪源一さんが担当されています。
「むじな」と呼ばれるのっぺらぼうが題材の作品。
商人(春風亭小朝)が夜道を歩いているとしゃがみ込んで泣いている女を見つけ、心配して声をかけるが、振り向いた女の顔には目も鼻も口もなかったという約5分の非常に短いドラマです。当時の特殊メイクの技術で表現されたのっぺらぼうなど小泉八雲の幻想的な世界観が忠実に映像化された作品です。



3つ目の物語は「雪女」です。
演出は瀧川治水さんが担当されています。
「雪女」は各地方で様々な逸話があり、妖怪や雪の精霊、女の霊などその正体も様々です。
小泉八雲の「雪女」のあらすじは、以下のような内容です。

吹雪で家に帰れなくなった木こりの巳之吉が茂作という師匠とともに山小屋で寒さを凌いだ。夜、巳之吉が目を覚ますと、小屋の中に白装束の美しい女が立っていた。そして、女は寝ている茂作に息を吹きかけて殺し、巳之吉にも息を吹きかけようとしたが、「まだ若いから助けてやる。もし今夜の出来事を誰かに言ったら殺す」と言い残し、去っていった。1年後、巳之吉はお雪という美しい女性と出逢い、二人は結婚し、子供も生まれた。しかし数年後の吹雪の晩、巳之吉はお雪にあの夜の出来事をつい話してしまう。すると、お雪は「その女は私だ。」と言い、あの時見た白装束の女に変身した。

ドラマでは、雪の一族や山の掟といったオリジナル要素も登場し、なぜ雪女は茂作を殺したのか、なぜ人間の女性のフリをして、巳之吉と結婚したのかなど原作を補完するようなストーリーとなっています。
人間の巳之吉に恋してしまい、一族にお願いして話すことを禁じられる代わりに人間となり、最後は一族に約束を破った巳之吉を殺すよう命じられても、巳之吉と子どもを思って巳之吉を殺すことが出来ず、自身が犠牲となる雪女(藤谷美和子)の姿はさながらアンデルセンの「人魚姫」を彷彿とさせる切なさです。



今回紹介した「怪談」には、「怪談Ⅱ」「怪談Ⅲ 牡丹燈篭」とシリーズが続いており、「怪談Ⅲ 牡丹燈篭」は放送ライブラリーでも視聴することが出来ます。

他にも放送ライブラリーで公開している小泉八雲の関連番組をいくつかご紹介します。
小泉八雲 松江にニッポンを見た(1994/山陰放送)
ふるさと紀行明治は甦る〔22〕小泉八雲避暑の家(1985/東海テレビ)
ドラマスペシャル 日本の面影〔1〕 ニューオリンズから(1984/NHK)
日曜名作座 怪談 鳥取の蒲団の話(1967/NHK)

2025年放送予定のNHK「連続テレビ小説 ばけばけ」に合わせて、是非放送ライブラリーで小泉八雲の世界を味わってみませんか。